ストレス学説(中編)
「汎適応症候群」の次は、「ストレスとストレッサー」について紹介します。
私たちには喜怒哀楽といった感情あり、喜びや悲しみでも、度を越えてしまうような情動は、健康に深く影響を与えてしまいます。
東洋医学では、怒りが肝を傷つけ、悲しみが肺を傷つけるといった具合に、人の感情を七情と呼んでおり、それぞれと関連する五臓に影響することを重視しています。
心と身体の関係を大切にする東洋医学の基本的な考え方です。
我々がストレスと認識する刺激は、外傷やウイルス等の感染、臭いや暑さなどの五感といった身体的なものだけでなく、喜怒哀楽といった七情による心理的なものも含まれます。
そのような生体に対して刺激となるものをストレッサーと呼び、ストレッサーが作り出す生体の歪みの状態をストレスと呼ぶのです。
【ストレスの3つの様相】
ストレスを受けた生体は、必ず3つの様相のどれかの反応を示します。
①副腎皮質の肥大
②胸腺・リンパ系の委縮
③胃・十二指腸の潰瘍
3つの反応を比較すると、副腎皮質のみ「肥大」という機能亢進反応であるとわかります。
このことから副腎皮質の反応が、生体の防衛反応にとって、もっとも重要な役割をしていることがわかります。
【ストレスの経過による症候群】
ストレスが生体に長時間にわたって作用すると、一定の順序によって、身体がストレスに適応することがわかっています。
その反応が起こる順序を3段階に分けることが出来ます。
①警告反応期
A ショック相
生体がストレッサーに直面した直後で、生体がそれに対応する準備がまったくできていない時期のことです。
刺激に対する抵抗力は、正常な状態よりも低下します。
神経系は抑圧され、体温と血圧は低下、毛細血管の透過性亢進、筋緊張の低下をきたします。
この期間は、短いときで数分間、長い場合で24時間ぐらい続きます。
B 反ショック相
ショック相に対して、生体が積極的な防衛反応を呈してくる時期にあたります。
下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、副腎皮質が肥大。
副腎皮質ホルモンの分泌量が増加し、ショック相から反対方向へ、つまり正常な身体の状態へと戻ろうとする 動きが出てきます。
体温と血圧は上昇、筋の緊張、血糖量が増加します。
受けた刺激以外の他の刺激に対しても抵抗力が増加します。
②抵抗期
副腎皮質は依然として肥大し、副腎皮質ホルモンの分泌は盛んである。
警告反応期と比べて、刺激に順応して、抵抗力は増加、身体内部の状態はかなり安定した状態となります。
初めに加えられたストレッサーに対してのみ有効な抵抗をあらわし、それ以外のストレッサーに対してはかえって抵抗力が弱まることになります。
つまり、目標とするストレッサーに対する抵抗力のみ増加し、それ以外の刺激に対する抵抗を犠牲にしているといえます。
③疲憊期
抵抗期に限界がきて、生体はストレスに対して反応する能力を失ってしまいます。
生体に作用している刺激が、あまりにも長く続いたり、ある程度以上に強すぎたりすると、生体は適応の反応を維持できなくなってしまいます。
そしてショック期の状況とよく似た変化をあらわし、抵抗力を失ってしまいます。
副腎皮質は肥大したままで、大きさにあまり変化はないのですが、その働きは不十分となってしまいます。
セリエはこの状態の終局を例えて、「冬山の遭難に見られるように死である」と述べています。