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小島 秀輝

樹木と水 どうすれば届くのか


もう一つ有力となる考え方が「蒸散」です。

季節が温かくなると、針葉樹も広葉樹も呼吸を通じてたくさんの水分を発散させます。

この発散と蒸発のことを「蒸散」と呼びます。

その量は、ブナの成木で一日につき数百リットルにもなるというから驚きです。

葉で行なわれる蒸散が、導管にある水分を上部へと吸い上げていることになります。

分子には、他の分子と引き合う力が働くという「凝集力」があります。

この凝集力によって、葉の水分が蒸発すると、それに引きずられる形で導管内の水分が上昇するという仕組みです。

しかし、この考え方にも疑問点があります。

ホットケーキに欠かすことができないメープルシロップ、これを収穫するのに最適な時期は「雪解け」のころです。

この頃にサトウカエデに聴診器をあて、水が幹に流れ込んでくるのを耳で聞き分け、木の内側の水圧が最も高くなるときに収穫が始まります。

時期はちょうど春の芽が出る直前、実は、カエデの枝にはまだ葉はありません。

聴診器で音がわかるほどの水が組みあがっているのに、葉が一枚もないとなると、蒸散による水の汲み上げ説は正しいとは考えられません。

蒸散で導管内を水分で満たすことはどうやら困難なようです。


樹木のてっぺんまでどのような仕組みで水を運んでいるのか。

細胞膜の浸透・毛管現象・蒸散と3つ内容をそれぞれ検証しましたが、どれも有力な説明とはならないようです。

「木々が地中の水を根から葉まで、どのように届けているのか」という問いに、森林研究は明確な答えを持ち合わせていないようです。


樹木に導管があるように、私たちの身体には、「三焦」という水の通路があります。

三焦は、人体を構成する物質(気・血・水)のひとつである「水」を統括する役割もあり、「決瀆の官」と称されます。

五臓六腑の一つであっても、その存在を知る人は東洋医学を知る人のみです。

樹木の水の流れが解明されていないように、三焦の役割も未だに解明されていません。

人体の水分代謝でいつも不思議に思うことがあります。

真夏の暑い日にスポーツをすると、滝のような汗がでます。

最後には口の中がカラカラとなり、喉の渇きは頂点に達します。

そんな状況で水分をとると、飲んだ直後にも関わらず、再び毛穴から汗が吹き出します。

水の吸収と汗の分泌にかかる時間は、ほんの数秒のように感じます。

真夏のランニングのように大量に水分を消費する際、「吸収・輸布・排泄」といった水分代謝が、ほんの短時間の内に行なわれていることに驚かされます。


導管と三焦、樹木と人体、水の通路のミステリーはどうやら共通のようです。

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