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小島 秀輝

六人衆 「壱」治療の始まり


月に一度、S邸にて開催される集会があります。

この集会の存在を知ったのは、今からおよそ5年前、81歳を迎えたSさんとの出会いでした。

ある方のご紹介で、Sさんのご自宅に往診をするようになったからです。

Sさんは両膝関節が変形し、歩行にもかなり支障が出ていました。

医師の診断は「変形性膝関節症」で、痛み止めの注射を打つことを繰り返していました。

ヒアルロン酸を含んだ鎮痛剤では膝関節の調子が良くなることはなく、悪化する膝の痛みと足を引きずるような歩行に悩む日々を過ごしておられました。

そのため、初診時、歩く姿勢や足の運び方など歩行状態を詳しく確認しました。

その結果、病の原因は膝関節ではなく、腰部にあるという結論に至り、伝承医学である鍼灸治療をおすすめしました。

するとSさんはすぐに興味を示してくださり、往診にて治療を始めることになります。


治療を始めて間もなく、高校時代に知り合った5人の友人の話題になりました。

ご友人はどの方もお元気で、歩くことに何も問題がありません。

一方、「自分だけが両足の調子が悪く、どこにも行くことができない」と嘆かれます。

初診時の膝の状態は、膝関節を90度にすら曲げることができず、床から立ち上がることも困難、ソファーに両手をついて、なんとか這い上がるような状態です。

途中、痛みで顔をしかめ、その動作の大変さは、見ている側も辛いほどでした。

そんなSさんをご友人は心配し、集会の場をS邸にすることになったそうです。

各々がおやつや飲み物を持ち寄り、ワイワイと賑やかな宴会を定期的に開催。

お友達にお茶を出したくても、畳から立ち上がるのが一苦労です。

それを見かねた友人たちが、Sさんの代わりに台所仕事をしてくれます。

自由に動くことができない自分の身体のことを、Sさんは残念に思っておられました。

「いつの日か、パッパと動けるようになって、みんなを安心させたい」

これがSさんの口癖となりました。


当時のSさんの状態を振り返ってみますと、

① 喘息 … 繰り返し咳が出る状態、痰を多く排出

② 冷え性 … 一年中、温熱カイロを必要とするほどで、クーラーの風を嫌う

③ 夜間尿 … 夜の睡眠時、90分ごとに小便に起きる

④ 肩こり … 肩こり専用の金槌で、肩を叩くほど

⑤ 顔色 … くすんだ黒色

⑥ 足首内側の細絡 … アキレス腱周辺に毛細血管が多数、紫色となって浮き出る

⑦ 姿勢 … 頭部や胸部を起こすことができないほど前傾姿勢(かなりの猫背)

⑧ 腰痛 … ときどき腰に痛みを発症

⑨ 腱鞘炎 … フライパンを持つと、親指と手首周辺に痛み

⑩ 逆流性胃炎 … 油っぽいものを食すと胃酸が逆流

両膝関節痛以外にもこれらの症状がありました。


伝承医学である東洋医学には、「異病同治」という話があります。

「異病同治」とは、「異なる病でも同じ治療で治すこと」です。

本当にそんなことができるのか、と驚く方もおられるでしょうが、東洋医学ではごくごく普通のことで、今まで多くの方を治療してきました。

それでもSさんの症状はあまりにも多いので、複数の症状それぞれの原因を考える必要がありました。

症状と原因をどのように結び付けて治療するのか、少し詳しくみてみましょう。


つづく

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