アスピリン
Tさんが市販薬を服用したことで、薬の副作用の怖さ、身体への多種多様な悪影響、そして解毒の難しさが明らかになりました。
そして、私の頭の中には、薬の影響に関して別のことが浮かぶようになりました。
もう少し踏み込んで、この薬の薬効に関するところを考えてみる必要が出てきました。
この薬の主成分は、「アスピリン」です。
薬の質量比では、アスピリンが4分の3を占めています。
アスピリンは、解熱鎮痛剤として古い歴史を持ちます。
その誕生までの歴史を辿ると、古代ギリシャの時代までさかのぼることになります。
古代ギリシャでは、痛風や神経痛に対して、柳の樹皮を用いていました。
紀元前、医師ヒポクラテスは、それを鎮痛や解熱に使っていたと伝えられています。
アメリカ大陸ではネイティブアメリカンが古くから柳の仲間を解熱や鎮痛に用いたり、日本でも歯痛に柳楊枝を用いたりしています。
18世紀になると、柳の樹皮からエキスを抽出できるようになり、悪寒や発熱、腫脹に強い効果があることがわかりました。
これにより、柳の学名がサリュックであることからサリシンと命名されることになります。
19世紀にはいると、サリシンを分解してサリチル酸が得られることも判明。
柳エキスであるサリシンは苦みがきつかったため、サリチル酸が鎮痛剤として使われるようになり、関節リウマチの治療などに使用されたのですが、副作用として胃潰瘍が生じるため、胃痛で苦しむことが問題となります。
さらに研究が進み、19世紀末にサリチル酸からアセチルサリチル酸(アスピリン)が誕生します。
これによって、副作用である胃痛が軽減されます。
しかし、アスピリンを主成分とする市販薬の添付書には、副作用として、下血を伴う胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍が現れるとの記載があります。
さらに、消化管出血、腸管穿孔を伴う小腸・大腸潰瘍も生じる可能性があるとの記載もあり、使用の際にはこれらの症状の有無を注意して観察する必要があります。
このように、古くから解熱鎮痛剤として使用されてきた「柳のエキス」は、科学技術の進歩によって、より効果的なものへと変化してきました。
胃腸などの消化器に対する副作用に関しても、徐々に改善され、悪影響が抑制されているようですが、完全には消失されていないこともわかりました。
胃薬を併用する理由が、このことではっきりと理解できたのではないでしょうか。