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大阪本町 東洋医学の和鍼治療院

涙の理由 (下)


Hさんの初診時、いろんな症状をかかえていて、悩んでいることを聞くことができました。

この時、Hさんは「すべての症状を改善することは難しい」と思っておられました。

そのため治療効果が出てくるのは、ずいぶん先のことになると決めておられたようです。

ところが、2回目の治療時に驚きのコメントをいただくことになります。

初診の治療後、布団から立ち上がることがとても楽にできるようになったので、「涙が溢れてきた」とのこと。

よほどうれしかったのでしょう。

立っていることがうそのように楽になったので、治療の翌日、お孫さんのために唐揚げを用意したそうです。

普段は、座ったままの姿勢で揚げることしかできないのですが、この日は立ったまま調理できたそうです。

ところがその翌日、右側の腰に痛みが出るようになり、再び動けなくなりました。

家族からは「余計なことをしないように」と注意され、落ち込んでしまいます。

あまりに情けなくて、また「涙が出た」とそうです。

難病の方に多い傾向ですが、鍼灸治療で急に体の調子が良くなるため、ついついできなかったことをやりたくなり、行動に移してしまいます。

いろいろと行動することは悪いことではないのですが、うっかり無理をしてしまうところに問題があります。

たくさんの人を診てきた経験があるので、私には予想できることですが、一般の方には難しいところです。

そのため、初診の治療後にきちんと無理をしないように説明をしてはいるのですが、動きすぎてしまう人が多いのが現実です。

Hさんは二度涙を流すことになりましたが、その理由はまったく異なるものでした。

病を治すためには、時間の経過が必要となります。

そのために重要になるのが自然治癒力で、これを高めるために「癒」が必要になります。

Hさんの脊柱管狭窄症は、完全に治すことが難しい症状です。

しかし、簡単に治すことはできなくても、癒えることは可能です。

その証拠に、ほんの数回の治療で腰の調子が改善し、立ち上がることや歩行が楽になり、立って調理ができるようになったり、長時間の編み物ができるようになったりしました。

鍼灸治療を始めたばかりで、おそらく狭窄症は治ってはいないのですが、心身ともに癒えたからこそ、いろんなことをやりたいと思えるようになってもらえたのではないでしょうか。

「癒える」ということは、自分自身と「病」との和解であり、心身の充足感を伴うものなのです。

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