ウイルスと免疫の攻防 (中)
第一段階は、喉の粘膜でウイルスの感染を阻止することになります。 この防衛機能を掻い潜り、粘膜細胞に取りついて細胞内に侵入した状態を「感染」と呼びます。
ウイルスは、粘膜細胞の中で増殖し、細胞を破壊しながら外部へと放出されます。 この段階で、免疫システムは第二段階へと入ります。 ウイルスに感染した細胞は、インターフェロンと呼ばれるたんぱく質を作り、細胞の外へ放出します。 これによって、感染した細胞は、周囲の細胞に救援と警告の信号を発して、細胞同士で連携してウイルスの増殖を阻止するように働きかけます。 さらにリンパ球の一つ、NK細胞がウイルスに感染した細胞を発見し、それを溶かしてしまいます。 感染した細胞を殺すことで、その細胞内のウイルスは、複製される前の不完全な姿で放出され、完全に無害化されます。 まさに自らを犠牲にして全体を守ることを、感染した細胞は選択するのです。 このようにしてNK細胞とウイルスの攻防を繰り広げるんですが、それでもウイルスの増殖を防げないケースが起こります。 ウイルスに感染され、ウイルスの増殖を防げなかった細胞からは、増殖した無数のウイルスが飛び出してきて、さらに周囲の粘膜細胞に感染していきます。 ウイルスが飛び出てた後の細胞は、破壊され、残骸だけが残ることになります。 このような細胞が増えてくると、粘膜は炎症を起こし、鼻水や喉の痛み、発熱といった風邪の症状が発症することになるのです。
一つの細胞から1000個単位のウイルスが飛び出してきます。 この増殖サイクルがもう一回行われるとすると、数百万にも増えることが予想されます。 インフルエンザウイルスの場合、ウイルスが感染してから細胞を破壊して出てくるまでに約7時間かかります。 このサイクルを3回ほど繰り返されると、最悪の場合、約一日で無数のインフルエンザウイルスが体内に存在する計算になります。 つまり、ウイルスに感染してから症状が出るまでの潜伏期間は、速い人で約一日ということになります。 無数のウイルスが体内に存在し、我々にも風邪と認識できる症状が出てくる段階では、IgAやインターフェロンによる局地的な戦いでは防ぎようがありません。 そのため、いよいよウイルスと免疫機能との「全面戦争」へと突入していきます。