冷たい汗、温かい汗
アリストテレスは、「涙の話」の続きで「汗」について以下のように語ります。 このような理由で、医者もまた、「冷たい汗をかくのは大病の兆候であり、温かい汗は反対に病気を取り除く」と考えているのである。 なぜなら、余剰物が多量に体内にある時には、内部の熱がこれをこなすことができない。 そのため、それは必然的に冷たいということになる。 しかし余剰物が少量であれば、熱がこれを制御することができるのである。 病気というものは余剰物が原因で生じるのである。 さらに彼は、「汗」について「発汗に関する諸問題」の中で以下のように説明しています。 汗のうち、温かいものの方が冷たい汗よりも良いと判断されるが、それはなぜだろうか? その理由は、すべての汗はある余剰物の排出であるが、少量の余剰物は温められるけれども、量が多くなるとそれと同じようにはいかないのが当然であって、したがって、冷たい汗は余剰物が大量であることを示すことになるであろうし、それゆえにまた、冷たい汗は病気が長びくことを物語っているからであろうか。 こうしたアリストテレスの考え方も、実はヒポクラテスを参考にしています。 ヒポクラテスもアリストテレスと同じ古代ギリシアの人で、現代医学では「医学の父」と称されています。 彼は病気そのものを、「人に備わる自然の経過である」と見ており、その自然を助けることを医術と心得ていました。 彼は医療技術を重んじる一方で、「自然こそ病気の治療者である」という信念をもっており、病の推移を細かく観察したことで有名です。 その彼の名作「箴言」には、「高熱をともなう冷たい汗は死の兆候である」と記されてます。 「汗」をこのように分析した古代の医者の観察眼、まさに看護の眼差しに感服しました。 東洋医学においても、「汗」は病気を分析する上で、非常に重要であります。 しかし、温かいとか冷たいとかの視点は無く、この発想はあまりに斬新で、非常に興味深いところです。