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和鍼院長 小島秀輝

一本鍼


鍼灸治療というと、背中にたくさんの鍼を立てることをイメージする方がおられるのではないでしょうか。

あるいは、病気が治るまで、何回も通わないといけないと思われる方もおられると思います。

病気の原因や身体の状態は十人十色ですので、ひとりひとりに合った治療が必要です。

そのため、定期的に治療を受けてもらう必要がある方もおられますし、驚くほどに簡単に症状が改善する方もおられます。

たった一本の鍼で、瞬時に症状が消失することも珍しいことではありません。

あまりにあっけなく症状が改善するため、本当に大丈夫なのか不安になるほどです。

そんな治療をご紹介いたします。

「母が三日前の早朝から腰痛を発症し、歩くのが困難になった」と、最近治療に通っておられる娘さんから電話をいただきました。

お母さんは85歳とご高齢ですが、ふだんは健康のため、2駅ほど離れた市場まで買い物へ行かれるほど、足腰が丈夫のご様子。

グランドゴルフを趣味にしておられて、腰痛が出た日も我慢して行くつもりだったようです。

状態を見た娘さんがひき止めたので、行くのを断念したのですが、徐々に痛みが悪化して、歩くのも座るのも辛くなったそうです。

問診票に記載してもらうため、ソファーに腰かけてもらう予定でしたが、座ると痛みがひどくなるので、すぐに治療室にご案内させて

歩く姿は、腰を屈める前傾姿勢で、左足を引きずるようでした。

ベッドに仰向けに寝ていただくも、痛みでつらそうなご様子。

脈診で股関節が悪いことを察知したので、おへそ横のツボに一本だけ鍼を立てました。

鍼を刺している間に、いろいろと問診をして、痛める前日に講演会に参加して長く座ったことを確認しました。

置鍼して10分後、鍼を抜いて、ベッドから起きてもらいました。

「鍼はしたんですか」と聞かれたので、「お腹にしましたよ」と答えたほど、鍼の刺激は軽かったようです。

それから腰の状態を確認してもらうため、少し歩いてもらうと、完全に痛みが消失し、背筋も真っ直ぐ伸びたことがわかりました。

あまりに簡単に腰痛は消失したので、お母さんは歩けないほど痛かった腰がどうなったのか不思議で仕方が無いご様子でした。

私自身もこんなに簡単に治療できるとはおもわなかったので、久々に感動してしまいました。

腰の状態は問題が無くなったようでしたが、ご高齢でしたので、微かに出ている内臓の不調を治療することに切り替えて、2ヵ所のツボを加えることにしました。

その治療の間も問診を続けて、圧迫骨折を2回していることや、正座が10年間できないことも聞くことができました。そして今回の腰痛の原因が、左足を右足の上に組む習慣であることを究明することにも成功し、たった一回の治療で、病の原因と症状の改善、今後の生活で気をつけていただくことまで判明しました。

さらに内臓を調整したことで、正座までできるようになりました。

姿勢には特に気をつけておられますが、まちがった姿勢を正しいと思い込んでおられていたので、それも指導させてもらいました。

2回の圧迫骨折の原因は、この間違った姿勢をとるからではないかと思っております。

このようにご高齢で、歩くのが不自由なほどの腰痛があっても、一本の鍼でかなり改善することもあるのです。

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