肝硬変
70代女性 Hさん
2年前に肝硬変と診断される。
腹水があり、下腹部が張って苦しい。
左大腿骨を骨折し、歩行が困難。
壁を伝え歩きするように、よちよち歩くのがやっとの状態。
50代の頃から睡眠薬を常用するようになり、薬を飲まないと眠れない。
食欲がかなり減退し、お腹が常に張っている感じがあるので、少しでも食べると苦しくなる。
少し動くだけで息切れをおこす。
腎臓の機能低下もあり、毒素(アンモニア)が体内に溜まりやすい。
初診時の印象は、かなり痩せておられて、お腹がパンパンに張っている様子でした。
まるで妊婦さんのようなお腹には、5リットルぐらいの腹水があるように推測できました。
問診と体表観察などから、生命力を上げていくことが治療の目標であるとすぐにわかりました。
鍼灸治療は、気を調節することに非常に優れていますが、むやみに使用しすぎると身体の気を漏らす
ことになり、体力を消耗したり、生命力を落としたりすることにもなりかねません。
的確な診断と治療が必要です。
脈診をして、慎重に使用するツボを選択しました。
選穴したのは4箇所で、腎の気と胃の気を高めることに専念しました。
幸い、初診時の治療後から腹水が減少し、苦しい腹部の膨満感が減少しました。
たった一回の治療で、腹水が五分の一ほど減少し、その様子は外見ではっきり認識できるほどの変化です。
治療後にトイてレに行かれて、尿としてスムーズに、いつもよりたくさん出たそうです。
利尿剤を服用しても出なかった腹水の水分が、鍼灸治療によって利尿作用をもたらすことができたことに、ご本人は大変喜んでおられました。
回数を重ねるごとに腹水による腹部の張りは減少し、初診時の三分の一まで小さくなりました。
常にあったみぞおちのつまり感や突き上げ感が減ったことで、少しずつ食欲が増すことができました。
それでも食べたいものしか食べてもらえず、胃の働きを高めることは、腹水を減らすことよりも難しく感じられました。
治療を始めて一ヶ月後に風邪を引かれて、喘息のような喘ぐ呼吸と発熱、喉の痛み、倦怠感が新たな症状として出ました。
3日間で呼吸と喉の痛みはなくなったのですが、倦怠感と微熱が取れず、自力でベッドから起き上がることができません。
免疫力の低下が推測されるので、膀胱炎の可能性を考えていました。
その2日後が病院の検査日だったので、救急車で搬送され、病院で診察を受けることになりました。
風邪を引いてから5日後に肺炎と診断され、腎臓の機能低下があるということでそのまま入院となりました。
喘息のような呼吸と喉の激しい痛みが鍼灸治療で消失していたので、まさか肺炎を起こされていたとは思いもよりませんでした。
生命力が普段から低下されていたので、ちょっとした風邪であっても、体調が急変してしまうことを学びました。
入院前に、東洋医学に精通しているドクターにも状況を説明して、倦怠感と微熱の可能性を検討してもらっていました。
もともと肝臓と腎臓の機能低下が著しいので、少しでも体調を崩すと、肝臓と腎臓の働きがさらに低下し、それによって毒素が身体に回る
こともありえるとのことでした。
倦怠感の裏づけとしては十分に考えられますし、西洋医学での薬剤が必要であることは明らかでした。
ご家族に、前回に風邪を引いたときの状況もお聞きしました。
その年の春先に、やはり風邪をこじらせて、三週間ほど入院していたそうです。
今回と同じようにベッドから起き上がることができず、救急車での緊急搬送だったそうです。
病院での検査および入院により、二週間で肺炎から回復されました。
しかし今回の生命力の低下は身体に大きなダメージを残すことになり、1ヶ月ほどベッドから身体を起こすことができない状態が続いていました。
一時帰宅の際に、身体を診たときも、ベッドから起き上がることができず、話す力も弱々しく、食欲がほとんどありませんでした。
腹水も治療するまえの状態にすっかり戻ってしまい、病院での利尿剤では、小便としてまったく出ず、膨満感の苦しさと吐き気でつらいとのことでした。
一泊二日の自宅滞在期間でしたが、2日続けて治療を行いました。
この間、たった二回の治療でしたが、腹水が減少し、少し吐き気が楽になり、みぞおちのつまり感も良くなっていただきました。
一日も早い帰宅を望まれていたのですが、ベッドから起き上がることができないので、病院にてリハビリを継続し、自立歩行ができることを目指しました。
少しずつ体力が回復されていることをご親族の方からお聞きしていたのですが、腹水の膨満感がどうしても我慢できなかったようです。
「腹水の水を絶対に抜かない」と以前から決めておられたのですが、よほどつらかったのか、主治医の提案で、穿刺で抜くことを選択されました。
しかしこのことで、一気に生命力が低下され、再び呼吸が荒くなり、風邪でもないのに「ゼイゼイ」と喘ぐようになってしまいました。
さらにベッドから起き上がることもできなくなり、食事は口から何も取れない状態へと急変されました。
その後、点滴で栄養補給するしかなく、アンモニアの調整もされていました。
亡くなる5日前に、様態を診させてもらいに病院に伺いました。
ご家族からのご要望で、病院での鍼灸治療を医師の許可をもらい、腹水の調整と食欲の回復のために治療を行いました。
身体に刺さない鍼(鍉鍼)を使い、刺激を極力少なくすることに心がけました。
苦しそうに呼吸されていたのですが、幾分楽になってもらえました。
治療で改善が見られたのは二日間だけで、三日目からは治療の効果を確認することもできなくなりました。
治療を始めてから約100日間、亡くなるまでお身体を診させてもらえました。
肝硬変で生命力がかなり低下している段階からの治療でしたが、腹水の減少に鍼灸は非常に有効でした。
腹水は、膨満感、突き上げ感、食欲不振、呼吸不全など、ご本人とって、とてもつらい症状をもたらします。
西洋医学での薬物療法や穿刺は、身体への負担が大きく、さらに生命力を落としてしまうこともありえます。
生命力を上げることは、「正気」と「邪気」のバランスによって、回復度合いに差が出ます。
正気がしっかりしておられる方は、一見大変に思える症状でも、早期に回復できることがあります。
Hさんは、正気の弱りが著しいことで、邪気によって体調が大きく左右され、しかもその際に同時に正気を失うというとても難しい状態でした。
そんな状態の中で、しかも体調がどんなときであっても、腹水の調整ができたことは、驚くほどのことであり、ご本人にもすごく喜んでもらえました。
体調の好転を感じてもらい、さまざまな症状による苦しみが軽減し、食欲が僅かでも回復し、食事をしてもらえたことが私のとっても喜びでした。
東洋医学の鍼灸治療は、腹水にも、腹水によって生じる様々な症状にも、非常に効果が期待できます。
腹水でお悩みの方に、ぜひとも和鍼治療院で鍼灸治療を試していただきたいと願っております。
肝硬変について
あらゆる慢性進行性肝疾患の終末症状が肝硬変です。
症状は、肝機能障害と門脈圧亢進症状で、初期段階では出現を認識しにくいです。
肝硬変で苦しんでおられる方が、全国に30万から40万近くと推測されています。
肝硬変の症状
腹水
浮腫(低アルブミン血症)
出血傾向(血液が凝固しにくくなる)
黄疸
クモ状血管腫
手掌紅斑
女性化乳房(ステロイド代謝障害)
肝性脳症
口臭
羽ばたき振戦(アンモニア上昇)
西洋医学の治療法
浮腫・腹水への治療
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