ストレス学説(後編)
ストレスが人体にさまざまな影響を与えることは広く知られていることです。
東洋医学においてストレスは、気滞や瘀血などの病理産物と関係が深く、病気の原因になると考える点においては現代医学と同じであります。
ストレスがどのように影響を与えるのかを動物実験によって証明したのが、ハンス・セリエです。
カナダのモントリオール大学教授であるハンス・セリエは、1936年に「汎適応症候群」という学説を世の中に提唱します。
それは、別名で「ストレス学説」とも呼ばれており、一般にはあまり知られていませんが、医学界において大きな功績として名を残しています。
ナポレオンは、肉体の変貌とともに、人格や行動力まで変化してしまいました。
そのことを以前のブログにも取り上げましたので、是非参考にしてほしいと思います。
彼が若い頃、非常に精力的に仕事をこなしたのですが、度重なる戦争によるストレスや、人の何倍も仕事をしたこと、慢性的に睡眠不足であったことなど、これらによって心身を蝕んで、胃潰瘍や胃癌を引き起こしたであろうことは想像に難くありません。
そのような心身に影響を与える何らかの刺激が生体に加わった際、生体の反応が「副腎皮質ホルモン系の協調作用によって起こる」ことを突き止めたことが、セリエ教授の功績であります。
この反応自体は、もともと生体にとって有益な反応です。
ところが、その適応現象が発現する際に、適応の失敗がおこることがあり、そのために数多くの疾病を引き起こすことになることが判明しました。
そして、適応反応をうまく起こすことができない場合に発症する疾病の数々を「汎適応症候群」と命名しました。
「汎適応症候群」は2種類に分類することができます。
①一次的な疾病として、下垂体および副腎皮質そのものの疾病…クッシング症候群・シモンズ病・アジソン病など
②二次的な疾病として、ストレス状態がある臓器に異常におこることによって誘発される疾病…高血圧・リウマチ・胃潰瘍・心臓病などの慢性疾患の類
ストレスが人体にどのように影響を与えるのかを、ストレッサー(刺激)と生体の適応の関係から解明しています。
ストレッサーだけに注目が集まりやすいのですが、それを受け止める生体側にも着目する必要があることを示しています。