アスピリンの功
消炎鎮痛剤の誘惑
今回、アスピリン配合の市販薬を使用したTさんの副作用は、胃などの消化器ではありませんでした。
薬の歴史を振り返ると、アスピリンは柳のエキス剤に端を発し、その発展過程で使用されてきた目的がリウマチの関節痛に対しての鎮痛効果だったこともわかりました。
Tさんは30代のころから手の指の関節にリウマチを発症し、それから20年以上にわたり、整形外科を受診しています。
医師が処方する薬をきちんと服用していたようです。
60代になって、私がTさんの身体を鍼灸治療することには、指の変形はとてもひどい状態になっていて、90度近く関節変形が進んでいる手指もあるほどです。
しっかり手を握ろうとしても、手のひらと手指の間にはかなりの空間ができてしまいます。
このような状態では、握力もかなり低下しているでしょうし、摘まむような細かい作業には困難が生じると思われます。
家事をすべて一人で行なっており、手指がこのように不自由であることで、QOLに多大な影響を与えています。
鍼灸治療をするようになって、徐々に指の関節痛は軽減してゆき、治療開始から半月後にはリウマチの薬を飲む必要がなくなりました。
当時、Tさんの主訴は、股関節痛と腰痛でしたが、関節リウマチまでがこんなにも早く消失できたことにより、私にとっては記憶に残る治療経験のひとつとなっています。
あれから10年以上が経過し、Tさんは指の痛みの不安から市販薬に手を伸ばしてしまいました。
コマーシャルの大きな字にすっかり魅了され、小さな字で書かれている内容には目もくれず、薬を使用していたころの記憶すら残っていない様子です。
アスピリンがリウマチ関節の疼痛に効果があることは先ほどの通り歴然で、今回もたった1錠の服用で2日間も効果が持続したことがわかります。
消炎鎮痛剤として非常に優れていることがわかり、対処療法としてはとても優秀だと思いました。
それゆえ、市販薬として、多くの人が利用している理由もわかるような気がします。
しかし、添付文書の記載にあるように、薬物療法ではなく、原因療法を優先すべきこともよくわかる結果となりました。